投資は今すぐ始めた方がいいは間違いでした!

コラム

下落と上昇が同じ%でも同等の額には戻らない!?

投資の世界では「同じ割合の上昇と下落で損益は相殺される」と思いがちですが、実はそうではありません。価格が10%下がったあとに10%上がっても、元の金額には戻らない──つまり、下落後の回復が元本を取り戻すにはより大きな上昇を必要とする現象が、リターンに影響を与えます。

この記事では、初期投資5万円を段階的な下落局面と下落後に回復して値動きが元の株価まで回復したという流れを追って、最終的な評価額をたどった時に、どうなるのかをシナリオ別のシミュレーションを行い、その結果を追ってみました。さらに、為替の影響やヘッジの有無による違いについても解説し、下落時の行動がいかに重要かを考察していきます。

同じ%でも同等の額には戻らない

複数回の「下落・上昇」がある場合、元の金額に戻らないことがよくあります。

価格変動による評価額の推移(一覧表)

まずは、基本的な初期投資後に一切の売却もせず、放置した場合のシミュレーションをご覧ください。

ステップ 計算式 評価額(円)
初期金額 50,000
① 10%下落 50,000 × (1 − 0.10) 45,000
② さらに10%下落 45,000 × (1 − 0.10) 40,500
③ 10%回復(上昇) 40,500 × (1 + 0.10) 44,550
④ さらに10%上昇 44,550 × (1 + 0.10) 49,005

これで下落前と同じ上昇率に戻ったことになりますが、結果として元の5万円に戻っていないことが解ると思います。

パーセンテージの変化は常に現在の評価額
元の金額から下落した場合、下落した時点の金額に対して計算されるため、下落後に同じ%だけ上昇しても、元の金額には戻りません。

例:

  • 10%下落すると → 90%になる
  • その後10%上昇しても90%が基準として算出される
  • 90% × 1.10 = 99%になるため、約1.99%の損失が残ります。

【 結果 】(元には戻らない)

  • 最終金額:49,005円
  • 元の金額との差:−995円
  • 約−1.99%の損失

金額は 49,005円 です。これを元の 50,000円 に戻すには、
【 結論 】 プラスで約2.03%の上昇 をしなければ、元の5万円に戻りません。

※:ただし、個別銘柄や市場全体の回復力、そして為替の変動によっては、元の価格以上に回復するケースもあります。とはいえ、単純な%の上下だけでは元に戻らないことを理解しておくことが重要です。特に外貨建て資産では、為替の影響がリターンに大きく作用するため、ヘッジの有無も含めて慎重な判断が求められます。

為替でも変わる

為替が絡むと、もうひとつのシナリオが顔を出します。
たとえば、株価やETFの価格が元に戻っても、為替が円安→円高になった場合、円換算の評価額は戻らない  といった局面も存在します。

たとえば…

  • 米国ETFを¥500相当で買ったときの為替:1ドル=¥100
  • ETF価格が$5.00 → そのときの評価額:¥500

ETFが同じ$5.00に戻ったとしても…

  • 為替が1ドル=¥95になっていた場合 → 評価額は¥475

為替差損で25円マイナスとなります。

状況 ETF価格(USD) 為替レート(円/USD) 円換算評価額(円) 差額
購入時 $5.00 ¥100 ¥500
回復時 $5.00 ¥95 ¥475 −¥25
このように、価格が完全に回復しても、為替が円高になっていると評価額は減少します。

そのため、海外資産を持つときは、以下の内容を考慮して考えることも必要となります。

  1. 価格変動(株価やETFの値動き)
  2. 為替変動 (円安・円高)
  3. 手数料・税金(購入時・売却時・運用中)
ヘッジの有無 特徴 見えないコスト
ヘッジなし 為替の影響をそのまま受ける 為替手数料がかかる(証券会社による)
ヘッジあり 為替リスクを抑える ヘッジコストが発生(運用側が負担)
※:(運用側が負担)ヘッジコストはファンドの運用側が支払う仕組みですが、その分リターンが抑えられるため、実質的には個人投資家が負担していると考えるのが自然です。
つまり、どちらを選んでも“見えないコスト”が存在するということになります。投資判断では、価格だけでなく、為替やコストに対する心構えも持っておくことが大切です。特に長期投資では、こうした要素がリターンに影響してくるため、知らないまま始め、あとで疑問に思ういますので、あらかじめ意識しておくことで安心につながると言えるでしょう。

この3つの内容は、為替ヘッジの有無で変わってきますが、基本的にはどちらにも見えないコストがかかっています。

実は為替ヘッジなしのS&P500ファンドを日本の証券会社で購入しても、為替手数料は基本的に「かかる」ことになります。逆の、為替ヘッジありのファンドでは「ヘッジコスト」が発生します。

このように、為替が円安から円高に動いた場合、たとえ米国ETFの価格が元に戻っても、円換算の評価額は戻らないというケースがあります。これは「為替差損」と呼ばれ、投資家のリターンにじわじわと影響します。

為替ヘッジなしファンドの為替手数料について

  • 為替ヘッジなしのS&P500ファンド(例:eMAXIS Slim米国株式(S&P500)、i Free ETF S&P500など)は、米ドル建ての資産にそのまま投資できます。
  • この場合、ファンドの運用会社が円をドルに両替して投資するため、為替スプレッド(為替手数料)が間接的にかかっています。
  • ただし、投資家が直接ドルに両替するわけではないため、証券口座での「為替手数料」として明示的に請求されることはありません。
  • その代わり、信託報酬や実質コストに含まれていることが多く、見えにくい形でコストが発生しているため完全にゼロと考えるには誤解につながります。

この為替スプレッドは、ファンドの購入時やリバランス時に運用会社がドルに両替する際に発生するもので、投資家の目には見えにくいコストです。

為替ヘッジありファンドとの違い

  • 為替ヘッジありのファンドは、為替変動リスクを抑えるためにヘッジ取引(先物やスワップ)を行います
  • このヘッジにはコストがかかり、特に米国と日本の金利差が大きいとき(現在のように米金利が高いとき)には、ヘッジコストが高くなる傾向があります。
  • つまり、為替ヘッジあり=為替リスクは抑えられるが、コストが高くなるというトレードオフがあります。

まとめると以下の様なコスト構造になっています。

項目 為替ヘッジなし 為替ヘッジあり
為替リスク あり なし(抑制)
為替手数料 間接的に発生(信託報酬等に含まれる) ヘッジコストとして明示的に発生
コスト水準 比較的低い やや高め
向いている人 為替リスクを受け入れてでも、米国株の成長を長期で取り込みたい人 為替変動による不安を避けたい人(短期投資や安定志向)

※:ヘッジコストはファンドの運用成績に反映されるため、投資家が直接支払うわけではありませんが、リターンの一部が削られる形になります。

次に他の状況を想定したパターンとして、20%下落後に20%回復した場合のシミュレーションをしてみたので、参考にしてみてください。

シナリオ別価格推移シミュレーション

今回は、価格が「−10% → さらに−10% → +10% → さらに+10%」と動いた場合に、3つの投資行動によって円換算での最終的な評価額がどう変わるかをシミュレーションしました。

なお、B(⼀部売却)やC(全額売却)の売却・再投資もすべて「円ベース」で行っており、たとえば「¥25,000分を売却して、下落後にその金額で買い増す」といった形で計算しています。

このように金額ベースで統一することで、直感的に理解しやすくしています。
仮に「○口売却」といった口数ベースで解説すると、「1口にいくらになるのか?」「何口買えるのか?」と算出が必要になり、かえってわかりにくくなるため、今回は金額ベースでのシンプルな比較にしています。

  • A:何もしない(ホールド)
  • B:一部売却→下落時に再投資
  • C:全額売却→下落時に再投資

※:為替手数料や税金などのコストは含めていません。単純な価格変動のみで比較しています。

価格推移の前提

このシミュレーションでは、ETFの価格変動をすべて円換算で表記しています。ドル建て資産であっても、日本の投資家が実際に受け取る評価額は円ベースになるため、円での価格推移をもとに比較しています。

ステップ ETF価格 変動率 備考
初期価格 ¥500 初期保有100口(¥50,000)
−10% ¥450 −10%
−10% ¥405 −10%
+10% ¥445.5 +10%
+10% ¥490.05 +10% 最終価格(¥490.05)
※:ETF価格はすべて円ベースでの想定価格です。実際の投資では、これに加えて為替変動や手数料・税金などの要素が加わるため、より複雑になりますが、今回は価格変動の影響をシンプルに比較するため、その他の要素は除外しています。

シナリオ別の行動と評価額

想定パターンは3タイプ

A.何もしない
B.一部売却
C.一旦 全売却

以下では単純に解りやすくするために為替手数料等の別途コストは入れていません。

シナリオ 初期保有額 −10%後の行動 さらに−10%後の行動 +10%後の評価額(¥445.5) 最終評価額(¥490.05)
A. ホールド ¥50,000(100口) 何もしない 何もしない ¥44,550 ¥49,005
B. 一部売却 ¥50,000(100口)→¥25,000分売却(約55.56口) 保有約44.44口 ¥25,000で約61.73口買い増し 約106.17口 × ¥445.5 ≒ ¥47,319 約106.17口 × ¥490.05 ≒ ¥52,039
C. 全額売却 ¥50,000(100口)→全売却で¥45,000現金 ¥45,000で約111.11口購入 保有約111.11口 約111.11口 × ¥445.5 ≒ ¥49,500 約111.11口 × ¥490.05 ≒ ¥54,450
【補足ポイント】
  • A:ホールド  価格が戻っても口数は変わらないため、評価額は¥49,005止まり。
  • B:一部売却→買い増し  下落時に現金で買い増ししているため、保有口数が増え、回復時の評価額が上昇。
  • C:全額売却→買い増し  下落時に全額再投資することで、最も多くの口数を保有。回復時の評価額が最大。

シナリオ比較(最終価格)

BとCは買い増しタイミングが違いますが、どちらも“下落後に再投資”してる点で、回復時のリターンが大きくなりました。

シナリオ 最終評価額 増減額 増減率
A. ホールド ¥49,005 −¥995 −1.99%
B. 一部売却→買い増し ¥52,039 +¥2,039 +4.08%
C. 全額売却→買い増し ¥54,450 +¥4,450 +8.90%

【結論と考察】
今回のシミュレーションから見えてきたのは、「価格が戻っても資産は戻らない」という事実。そして、下落時にどう動くかが、回復時のリターンを大きく左右するということです。

特に投資資金が少ない時期には BやC のように「一部または全売却後→下落時に買い増し」という戦略は、リスクを抑えつつリターンを高める有効な手段になり得ます。ただし、最適な選択肢は人それぞれ。資金の流動性、投資期間、リスク許容度などを踏まえて、自分に合ったスタイルを見つけることが大切です。

為替の影響も忘れずに

ETF価格が戻っても、為替が円高になっていたら評価額は戻らない──この視点は、海外資産を持つ日本の投資家にとって非常に重要です。

  • 為替ヘッジなし:為替の影響を受けるが、コストは比較的低い
  • 為替ヘッジあり:為替リスクを抑えられるが、ヘッジコストが発生する

どちらにも「見えないコスト」があるため、証券会社の取引条件を確認することが大切です。

総評

このようなシミュレーションは、単なる理論ではなく「実際にどう動くか」を考えるきっかけになります。数字と行動の関係を可視化することで、投資における感情と戦略のバランスを取るヒントにもなります。

このシミュレーションから見えてきたのは、よく耳にする「今すぐ始めた方がいい」というインフルエンサーの言葉が、必ずしも事実とは一致しないとも言えます。

もちろん、長期的な機会損失を避けるために早めのスタートが有利な場面もありますが、下落局面では“待つ”という選択肢も戦略のひとつになります。

特に、下落後に再投資することでリターンが改善されるケースがあることを考えると、タイミングと行動の柔軟性が重要だと言えるではないでしょうか!。

投資は「数字のゲーム」であると同時に、「心理のゲーム」でもあります。冷静かつ柔軟な心構えで、複利の逆風を味方に変えていきましょう。


以上(投資は今すぐ始めた方がいいは間違いでした!)の記事でした。

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